さて浮かれた夏は終わり、落ち着きの秋がやってきて、私は又座り仕事に戻りました。新作の表紙はメゾチントに挑戦。版画家の加藤さんがパリに行っている間に私は教わったやり方でコシコシ銅版を磨いて白を出していきます。磨くのは大変だけど一度やってみたかったメゾチント。苦労はなんでもなくって楽しい。けっこう磨いたから黒の中からもやもやもやーって白が浮いてくるはず。うまくいっているはず。私の絵に合ってるはず。
だけど版画っていうのは刷ってみないと分からないってとこがなんだね。早く加藤さん帰ってこないかしら。版画が始まると私は大船通いです。何しろアトリエにはなんの道具もないから加藤さんにすべて頼りっぱなし。これじゃ版画家とはいえないね。いえないけどいいの。半版画家ってことで。